「バーソは自由に」

考え方はいろいろあるから面白い。

 抒情歌『谷間のともしび』は、アウトローの悲しい歌。 

 
「谷間の」という修飾語には、ひそやかな平穏がある。
清楚な陰りと、切ない感傷の匂いがある。

『谷間の百合』はバルザックが書いた、青年と美しい伯爵夫人との悲恋小説。
『谷間に三つの鐘が鳴る』は誕生・結婚・死を歌った、ブラウンズのヒット曲。

 そして今回扱う『谷間のともしび』はアメリカのカントリーミュージック。
※1
 昭和9年に東海林太郎がカヴァーし、抒情歌として日本中に大ヒットさせた。



わたしのおすすめは賠償千恵子さんのやさしい歌声。→ YouTube 

郷愁が胸に沁みてくる、素朴で牧歌的なメロディ。
邦詞は西原武三が「ふるさと・母親・懐かしさ」の三点セットでまとめている。
「たそがれに わが家の灯 窓に映りしとき わが子かえる日祈る 老いし母の姿」


しかし元歌は、アウトローの男の嘆きが語られているのだ。

 芭蕉の「古池や」とゴーギャンの絵の象徴世界。 


「古池や 蛙 飛こむ 水の音」


これは小学生でも知っている松尾バナナの、いえ、松尾芭蕉の俳句です。
※1
蕉風開眼の句とされ、この作品から俳句は新しい領域に入りました。

正岡子規は「表面に現れたるだけの意義」しかないと切り捨てているようですが、
古池に蛙が飛び込んで水音がした、閑寂だなあといった意味でしょうか。

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http://themetapicture.com/dealing-with-rainy-days/

どんな思いで見るかによって、世界の景色は変わります。
「古池や」の句とゴーギャンの絵から、現実世界に象徴世界を見る視点を考えました。

 シャガールとブリューゲルと小村雪岱の“お手上げ”の絵。 

こる出来事をどう見るかで、現実は変わってくる。

イカロス※1と父親が王の不興を買い、クレタ島に幽閉されていたとき、
父親は空を飛んで脱出することを考え出した。
鳥の羽を蝋(ロウ)で接着して二人分の翼を作り、その取り扱い説明を息子にする。
「息子よ、太陽に近づいてはならない。熱くなると蝋が溶けてしまうから」

q2icaroo.jpgしかしイカロスは調子に乗り、天高く舞い上がった。
太陽の熱さで蝋が溶け、羽が飛び散り、
哀れ、若者は手をバタバタ、お手上げ状態で
真っ逆さまに墜落―――。

Jacob Peter Gowi, La caida de Icaro(1636-38)

ギリシア神話では、イカロスはエーゲ海に落ちてしてしまうのだが、
ロシア生まれのユダヤ系画家シャガールは、イカロスが地上に浮遊降下するように描いた。

マルク・シャガール 『イカロスの墜落』 1974-77 (213×198cm)
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イカロスの両手は下向きだが、彼の観点からすれば万歳状態で、地上に手を振っている。
地上は、シャガールの出身地である帝政ロシア領ヴィテブスクに居住するユダヤ人たち。
イカロス直下の地元の人々は赤く熱い心で彼を迎え、周辺の人たちは青く静かに見守っている。
太陽は青く、イカロスを焦がしてない。上空にいる天使(?)は手を差し出して微笑んでいる。

この絵は、シャガールが98歳で亡くなる8年前に完成させた縦横およそ2メートルの大作。
太陽の高みを目指して絵を描き、最後はフランス国籍を取得したシャガールのイカロスは、
凋落のお手上げ状態ではなく、むしろ故郷に錦を飾る帰還を果たしているようにも思える。

“イカロスは舞い降りた”とジャック・ヒギンズ調に言いたい凱旋シーンに見えないだろうか。

 美しい体に美しい心が宿る、という思考。 

渦中の人だった東京都知事がついに辞職し、過日の人となってしまった。
 質問と言い訳のやり取りが何度もなされ、詳細に報道された。
 誠実さなし、論理性なし、根拠なしの弁明は、不信任案提出で幕が引かれた。

紀元前4世紀、古代ギリシアのアテナイで、これとは対照的な裁判があった。
有名な高級娼婦が、現代なら不適切・不確実と言える証拠により無罪とされたのだ。

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Adoree Villany in the "Dance of Phryne".1910? Bain News service photo

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